石垣島の童謡には「昼のうた」「夜のうた」がある
岩崎卓爾さんのことをブログにアップしたが、彼の著作にある「八重山童謡集」についてふれたい。前に書いた「沖縄の子守唄の不思議」のなかで、「昼の子守唄」と「夜の子守唄」があると紹介した。でも、その実際については、まだよくわからなかった。今回、岩崎氏の「八重山童謡集」を見ると、驚くことに「昼のうた」「夜のうた」に分類されているではないか!八重山の古謡集など見ても、こういう分類は見たことがなかったので、とても興味をもった。
では岩崎氏は、どういう唄を昼と夜に分類しているのだろうか? それは岩崎氏が勝手に分類したのではなく、明治時代には石垣島では童謡が分類されていたのを岩崎氏が採取して記録したのだろう。童謡は、子守唄や民謡も同じだが、やはり島の人々の暮らし、民俗を映し出している。それで、強い関心を持ったのだろうか。童謡も社会の変化、時間の経過とともに、消えていく。岩崎氏のこの「童謡集」は、石垣島に伝わる童謡の貴重な記録だ。
右写真は「岩崎卓爾の歩いた石垣島」から
「昼のうた」には、次のような唄がある。歌詞は、自己流に訳しなおした。
「昼のうた」で多いのは、「父や母が出かけて家にいない」という内容だ。
「♪坊やのお母さんどこに行った、大畑に行った、大きなお芋を取ってきて、坊やには美味しいのをあげよう、姉(あんま)には美味しくないのを煮てあげよう」。なぜ、坊やと姉が差別されているのだろうか。男の子を優遇したのか、下の子を甘えさるのか、よくわからない。
「♪坊やのお父さんどこへ行った、蔵元に出勤した、何の御用で蔵元にお勤めか」と、役所に行った父を歌う唄もある。
また、お母さんは、「中筋に木綿花を摘みに行った」とか「大山に薪木とりに行った、大木を取ってきたら、明後日は泡盛をつくり、明後々日には坊やのお祝いをしよう」などと歌う。やはり、父や母は働きに出ていないが、帰ってきたら何かいいことがある、という内容だ。童謡というが、子守唄のような感じだ。
次も子守唄のようだ。「♪坊やのつとめは眠ること、姉の役目は子守りするお役だよ」。眠らせ唄のようだ。
ちょっと異色の唄は、政治色を伴った唄だ。「♪唐の馬に乗ろうか、大和の馬に乗ろうか、はえど」と歌う。琉球は中国皇帝に朝貢し臣下となりながら、薩摩の支配を受けていた。唐(中国)と大和(薩摩)と両国につかえる、琉球王府の両属政策を皮肉ったものだ。これが、童謡だというのは、なんとも不思議な唄である。
「夜のうた」には、次のような唄がある。
「♪寺の符札には魔を除ける黄金の花が咲きおる、さかりょうり、ほうい、ちょうが」。これは「月ぬかいしゃ節」にある歌詞だ。他にもこの曲の歌詞がたくさん出ている。「月ぬかいしゃ節」は、典型的な夜のうたである。
また「♪どこが舟宿よ、蔵元のまいはまよ、どこに舟の錨を下ろし舟をつなごうか、美崎泊へ錨を下ろして舟をつなぎなさい」という唄もある。これは、私の勝手な想像だが、離島の島々から年貢の米や貢布を上納するのに、舟で蔵元のある石垣島に渡ってきた。その舟をどこに着けようか、という様子を歌ったのではないだろうか。
次の唄も意味はよくわからない。「♪新家の姉が失踪をなしたそうだが、人知らぬも草や木は知っておる」。なぜ、新家の姉さんがいなくなったのだろうか。密かに想いを寄せる彼と逢引きをしているのだろうか。それとも、役人に見染められて、賄いをさせられているのだろうか。真相はよくわからない。でも「人はしらぬも草や木は知っている」という。なにか秘め事のような感じがする。
「♪寺の西のいんちゆ姉が、馬の児を孕んで臨月になったから、兄の子だとか、弟の子だとか」。この唄も、なにかいわれがありそうだが、残念ながらこれだけではよくわからない。
「♪与那国家の後方にある栴檀木(せんだんぎ)は、大舟三艘を作るような巨木だが、その家の乙女が嫁入りの吉日には、抽出箱をつくりご祝儀しましょう」。
これらの「夜のうた」は、これがなぜ童謡なのかという歌詞が多い。「夜のうた」は、月の夜を歌っているという昼夜の関係だけではない。恋や結婚、妊娠などにかかわる「大人の唄」がかなりある。そういう意味で「夜のうた」にされているのではないだろうか。やはり、沖縄の童謡も不思議がいっぱいである。
なお、沖縄の子守唄に関心のある方は、ブログの11月分に「沖縄の子守唄の不思議・総集編」を4回にわたりアップしているので見て下さい。
右上の写真は、糸満市の上空に昇る満月。
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