「トイレの神様」は沖縄ではフツーのこと
植村花菜が歌った「トイレの神様」がヒットし、第42回日本有線大賞の有線音楽優秀賞をもらい、日本レコード大賞の優秀作品賞の一つに選ばれた。NHKの紅白歌合戦への出場も決まった。
この歌は、彼女のおばあちゃんが話したことが歌詞になっている。「♪トイレには、それはそれはキレイな神様がいるんやで、だから毎日キレイにしたら、女神さまみたいにべっぴんさんになるんやで」。初めてこの歌を聞くと、トイレと神様という意外なとりあわせに、ちょっと驚く人が多かったのではないだろうか。
でも、でも、でも、沖縄ではトイレに神様がいることは、昔からの風習として、フツーのことなのである。
沖縄ではトイレのことは、「フール」という。トイレには「フール神」(フルヌカン)がいると信じられて、拝む対象になっていた。沖縄の、古い家では、屋敷で豚を飼い、豚小屋と便所は一体になっていた。つまり、人間の排せつ物を豚に餌として食べさせた。
左写真は、久米島の上江洲家。こういう琉球王朝時代からの古い建物は、豚小屋兼便所( 右下写真)があった。
沖縄は、民間信仰が根強い。御嶽(うたき)と呼ばれる拝所はいたるところにある。それだけでなく、家にも神がいる。
「火の神」(ヒヌカン)は、台所に祀られ、家の守り神とされ、毎日拝む人もいるし、毎月1日、15日に家族の健康や家内安全を祈願する。
「屋敷神」(ヤシチガミ)は、土地や家屋の守り神で旧暦の2月、8月の2回、火の神、屋敷の四隅や中央など拝み、日ごろの感謝、家内安全を祈願する。そのさい、便所jの神も拝む。
「神の島」といわれる久高島の「便所の神」を紹介する。
「戦前まではほとんどの家庭に、石造りの豚小屋兼便所があった」「旧暦2月と8月におこなわれる屋敷のお祓いのとき、最後に便所に対して御願(ウガン)がおこなわれる。そのとき便所に<フルヌハミサマ>(便所の神様)と呼びかけている。また願い詞に『便所の神様、排泄は水の流れのようにスムーズにさせて、健康にさせてください』とある」。これは比嘉康雄著『日本人の魂の原卿沖縄久高島』から紹介した。
なぜ便所の神を拝むのか?。
比嘉氏は「便所を軽く考えると便所の神様が怒り病気になる。つまり、人間の健康状態を司っているのが便所の神様ということである」と解説している。また、火の神、水の神、屋敷の神などそれぞれ礼拝する。これら実生活と結びついた火、水、便所、屋敷など「これらを総称して御恩(グウン)といっている。つまり、感謝すべきものということである」と述べている。
もともと、厠、井戸、屋敷の四隅などには、神がいるから常に清めなければならないと教え、みずから実践したのは、琉球王朝時代の名高い政治家、蔡温(さいおん)だ、という口碑があるそうだ。結局は、疫病など災厄から守られるために、また便所を汚さないように考えて神様が祀られるようになったと解釈する人もいる(ネット「おもろ琉球風水」)。
もちろん、いまでは沖縄でもトイレはほとんど家の中にあるし、豚を自宅の敷地で飼っている人も少ないだろう。でも、トイレが人間の健康にとってとっても大事なことは、いまも昔も変わらない。
面白いのは、与那国島の祖納(そない)集落に伝わるという話だ。
フール(便所)、井戸、カマ(カマドのこと)の神様たちが、だれがフールの神様になるか話し合ったさい、もっとも美人の神様が「フルヌカン」(便所の神様)になった。だからトイレはキレイにしていなくてはいけない、そうである。
この話になると、もう植村花菜の「トイレの神様」に出ているおばあちゃんの話に通じる点がある。 もしかして、植村さんのおばあちゃんは、沖縄の「トイレの神様」のことを知っていたのだろうか?。そんな想像をしてみたくなる。
右上写真は、「トイレの神様」に御願しお供えをしている風景(「新報生活マガジンunai」から)。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
「トイレの神様」は沖縄の人たちの間で話題になると大変ややこしや、になります。私が行っていいるカラオケ教室で、ことしの紅白の出場者の話になったときのこと。Uさん「植村花菜って言う人が初出場って」Kさん「ああ、『トイレに神様がいる~』とかいう歌歌っている人でしょ」Oさん「あらじゃあその人沖縄の人なのね」Kさん「なんで?」Oさん「だってトイレに神様がいるっていったら、沖縄のことでしょう」Uさん「あらこの人関西の人だはずよ」Kさん「関西にもトイレに神様がいるのかしら」Oさん「そんなことないでしょう。昔からフールの神様がいるのは沖縄よ」Kさん「うちもトイレは毎日きれいにしてるし、月に一度はお供えもするわよ」・・・てな調子。彼女たちは年末の紅白で実際に「トイレの神様」を聞いて、「話が違う」と気づくんでしょうねえ!以前季刊誌「うない」でトイレの神様を特集していて、トイレに花と線香とお酒をお供えした、立派な写真が載っていて、「ここまでやるか!」って思ったさ~!
投稿: いくぼー | 2010年12月10日 (金) 08時14分
やっぱり沖縄のおばさん、おばあたちに間では「トイレの神様」と聞くと、そういう話になるんですね。面白ーい。自宅のトイレにお線香とお酒をお供えするのは、トイレの神様は生きてるんですねー。
投稿: レキオアキアキ | 2010年12月10日 (金) 09時04分
こんにちは、トイレの神様について調べていてたどり着きました。
文芸春秋3月号で植村花菜さんのエッセイが載っていました。
植村さんのおばあさまは鹿児島の沖永良部島生まれでトイレに女神様がいるというのは鹿児島~沖縄に伝わる伝承だそうです。
僕も沖縄出身だけどこんな話は聞いたことがなかったので、調べていました。
本当にあったのですね。ありがとうございました。
投稿: 12 | 2011年3月 6日 (日) 13時28分