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2011年1月29日 (土)

島唄の男と女の呼び方、その2

 彼女のことを「無蔵」(ンゾウ)と呼ぶ。これでは、女性像は想像できない。なぜおかしな表現になったのか? それは前にも書いた。繰り返しになるが、「無蔵」とは、日本語の「無惨」からきているという。無惨なことは「可哀そう」に転化し、さらに「可哀そう」が、「可愛い」に転化し、さらに沖縄では「可愛い」のは「彼女」と転化したそうである。「無惨」からはまるで無関係な「彼女」となったとは、言葉の変化は面白い。
 これに対して、彼氏のことは「里」(サト)といい、「里前」(サトメ)とも言う。なぜ、彼のことを「里」というのだろうか?
 「里」とは、言葉の意味としては、人家の集まっている所である。日本古語では、里は古代の行政区画の名でもあり、宮仕えの人が自家をさして言う言葉でもあった。これが沖縄では、恋愛関係にある男の住んでいる所をさして「里」と呼び、さらには好きな彼のことを「里にいる彼」という意味で「里」というようになったのではないだろうか。
 011 私流に考えるのは、この言葉は、遊女から出たのではないだろうか。「辻」など遊郭のあった街から、一般の街には勝手に外に出歩いてはいけなかった。遊びに来る士族は、主に首里から遊郭に通っていた。だから、遊女は、首里にいる好きな男のことを「里にいる彼」、つまり「里」と呼んだのではないだろうか。それがいつの間にか、一般の人の間にも広がったのではないか。それ以外に、どうも理由が思い浮かばない。
 右は、ラジオ番組に出演したネーネーズ。記事内容とは関係ない。

 「西武門節」(にしんじょうぶし)は、遊女と士族の恋愛模様を歌った典型的な唄だ。
 「♪今日や首里登て 何時や参が里前 面影と連れて忍で来さ無蔵よ」(きょうは首里に登り帰られて 今度はいつ来られますか あなたの面影に引かれて 忍んでくるよ彼女よ)と歌う。こういう士族と遊女の関係では、里前と無蔵の呼び方がぴったりくる。士族の夫と妻では、後から紹介するような、別の言い方があるので、こういう表現にはならないからだ。
 男女の表現は、他にもいろいろある。美しい若い女性、乙女を「美童」(ミヤラビ)という。
 「♪月ぬ美しゃや十日・三日、美童美しゃや 十七(とうなな)つぃ」(月の美しいのは13夜、女性の美しいのは17歳頃だよ)と歌う(「月ぬ美しゃや」)。
 もう少し年の上に女性を「姉小」(アングヮ)ともいう。「♪姉小が匂いぬしゅらさ」(姉さんの香りの芳しいことよ)などと歌う(「谷茶前=タンチャメ」)。
 若い男は、「二才達」(ニーセター)と呼ぶ。「♪ニーセターよ 三線片手に弾き鳴らし」(「片手に三線を」)。
 愛しい女性を「かぬしゃま」という使い方もする。「かぬしゃま 誠ぬ胸やりば 歌ば聞き 走り来んだらよ」(愛しい彼女の気持ちが真実のものならば、歌を聞いて走ってくるだろう)などと歌う(「トゥパラーマ」)。文字通り「かぬしゃま」という題名の民謡もある。
 女性から見た彼氏、妻から見た夫を、「うんじゅ」と言う使い方もある。
 「うんじゅが情けど頼まりる」という唄がある。「あたなの情けが頼りなのよ」という意味の題である。「♪うんじゅが姿の忘ららん 思い焦がれてやしはてて」(あなたの姿が忘れられない 思い焦がれて痩せはてている)というように歌う。
 最後に、夫婦の呼び方である。なぜか「夫」はそのまま「夫」であり、発音は「ウトゥ」。妻は「トゥジ」と言う。これは、沖縄ではいまでも普通に使われえいる。「うちのトゥジが⋯⋯」という具合に。夫婦の深い結びつきを歌った「夫婦船」(ミイトゥブニ)はこう歌う。
 「♪夫や帆柱に 妻や船心 如何(イチャ)る波風ん 共どぅやる」(夫は船の帆柱 妻は船の心だ どんな波風が強くても いつも一緒だよ)。
 この妻をなぜ「トゥジ」というのか、はじめは不可解だった。妻という字は、本来の字ではなく当て字のようだ。「トゥジ」とは、本来は「刀自」である。これは、日本語で、古い時代に家の戸主の意味で、家事をつかさどる主婦を刀自(とじ)と呼んだ。大和でも、古代、中世は女性の地位がまだ高かった。それが、封建的な家父長制にもとで、女性の地位は低くなり、戸主ではなくなった。
 沖縄では、古代からの女性優位が色濃く残っていた。儒教的な男性原理の側面も強まったが、「刀自」という言葉は現代まで残った。「トゥジ=妻」を表す言葉になった。いつの間にか「トゥジ」は刀自ではなく、妻の字を当てるようになったのだろう。
 長々書いたが、男と女の表現も多彩で、それぞれに色合いをもって使われているということである。

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コメント

温泉で、マッサージのうまいオババから「うんじゅのティーも出しなさい」っていわれますよ。うんじゅは日常生活で使われているようですね。

 いくぼーさんが、おばあから「うんじゅ」と言われたといえば、女から女にたいしても「うんじゅ」と使うんですね。「うんじゅが情ど頼まりる」は知名定男さんが歌って随分、ヒットしたそうですね。

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