島唄の男と女の呼び方、その1
沖縄の民謡は、とても恋歌が多いことは、このブログでもすでに書いてある。民謡を歌って、最初に戸惑うのは、男と女、彼と彼女の呼び方が、ウチナーグチ(沖縄語)では、とてもややこしいことだろう。
まず男と女は「男=イキガ」と「女=イナグ」である。ウチナーグチは、あまり使わない若い世代でも、女性を「イナグ」とよく呼ぶ。これは、大和でも、女性を「オナゴ」と呼ぶので、それがなまったものかと思う。
たとえば「肝がなさ節」(チムガナサブシ)。題名の意味は「心がかわいいでしょう」となる。この中でこう歌う。「♪男(イキガ)生りとてぃ、女(イナグ)生りとてぃ、かなさねんむぬや、ただぬ葉(フワー)ガラー」。「男が生まれても女が生まれても、かわいがりのない人はただの木の葉のようなものだ」という歌意である。
右写真は離島フェアーで。中央は新垣小百合さん。「肝がなさ節」が得意だ。
沖縄の古くからの民間信仰には「をなり神」信仰がある。これは、女性の姉妹「をなり(うない)神」が、男の兄弟「うぃき」を守るという信仰である。兄弟、姉妹が結婚しても、姉妹は兄弟を霊的に守護すると考えられたそうだ。昨年亡くなられた民俗学者の比嘉政夫さんからうかがったことがある。この男兄弟「うぃき」が、男の「イキガ」に通じているのではないだろうか。
女のことは、「無蔵」と書いて「ンゾー」と読むことは、ブログでもふれた。あとでまた書くが、彼女であっても、男性を捨てていった女性の場合などもう「無蔵」ではない。「イナグ」とよぶ。「ほたる火」という唄は、捨てられた男の惨めな心情を歌う。あまり好きになれないが、こんな歌詞がある。「♪無情ぬゆむ女(イナグ) 我ん捨てぃてぃ 他所になりてぃ」。この唄は、いつまでも愛し合おうと語り合った二人なのに、彼女の心が変わり、無情な女は私を捨てて、他所の男とよい仲になってしまった、と歌う。この「イナグ」には、憎しみが滲んでいる。
好きな彼と彼女は「彼=里、もしくは里前(サトメ)」、「彼女=無蔵」と呼ぶ。思いを寄せる男性を「思里」(ウミサト)とも言う。これが、民謡では最も多いだろう。
「肝がなさ節」では、「♪里がするかなさ 肌がなさかなさ 年重び(トゥシカサビ)重び肝ぬかなさ」と歌い出す。「彼がする可愛がりは、肌の可愛がり 年々年を重ねるたびに 心の可愛がりになる」という歌意である。
士族の男と遊女が掛け合いで歌う「川平節」(カビラブシ)では、里前も無蔵も出てくる。
「♪無蔵が面影に引かりて我身や 笠に顔隠ち 忍で行ちゅん」(貴女の面影に魅かれて私は、笠に顔を隠して忍んで会いに行きます)
「♪繰返し返し 思りわん里前 我がやなやびらん 他所にいもり」(繰り返し貴方を思ってみても 私はどうにもなりません 他所に行ってください)
遊女はあきらめるように言う。でも、彼はあきらめない。いっそここで一緒に死のうとまで言い、ついに彼女も、貴方と一緒になりたいと結ばれるという歌意である。
もう少し、書きたいことがあるが、長くなるので、続きは次にしようね。
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コメント
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好きな男性のことを「里前」という呼称は確かそうなる由来が学問的にあったはずです。伊波普猷さんの「沖縄女性史」にありました。忘れちゃったけど。士族の社会で生れた言葉だったような・・・。最初の言葉が変化して「里」になった、と書いてあったなあ。「うない神」といえば、ティサジと切っても切れない関係ですよね。でも姉妹がいない男性は誰に守ってもらったんでしょうね。
イナグは「うない神」とまでいわれるのに、離婚したり結婚しないで一人で死んだら、その位牌は「イナググヮンス」として忌み嫌われて、仏壇に並べてもらえないというのは、相矛盾してますよね。
投稿: いくぼー | 2011年1月29日 (土) 09時15分
彼女のことを「無蔵」というのは、語源がわかったけれど、彼氏のことを「里」というのは、よくわからなかったけれど、士族のことでしょうね。この男女の呼称の続きで、私の意見を書きましょうね。
沖縄は、位牌(トートーメ)は長男が継ぐのが原則になっているので、女性が差別的に扱われ、つらいこともいろいろあるんですね。たしかに、一方で「うない神」とされているのと矛盾しますが、これも比嘉政夫先生が強調していた、沖縄に女性優位と男性原理の両面があることの象徴でしょうか。
投稿: レキオアキアキ | 2011年1月29日 (土) 09時24分