山内盛彬生誕120年記念「ひやみかち」公演
琉球古典音楽の研究と継承や民謡「ひやみ かち節」作曲などで名高い山内盛彬(セイヒン)さんの生誕120年記念事業で、歌碑が建立されたことは、前にブログで書いた。これに関連して歌碑建立「ひやみかち」公演があった。公演には行けなかったが、その模様がテレビ沖縄の人気番組「郷土劇場」で5月17日に放送された。写真は、いずれテレビ沖縄の「郷土劇場」から、紹介する。
沖縄市に建立された山内盛彬歌碑は、4月に見に行ったことをブログでも書いた。公演は、歌碑建立資金の造成も兼ねていた。民謡界の大御所、登川誠仁をはじめ多彩な顔ぶれが出演して、なかなか興味深い島唄公演だった。なかでも、山内盛彬のひ孫、山内もりたかさんも登場して、演奏したのが注目された。
山内さんは、民謡では平良新助さんが 、移民として渡っていたアメリカから戦後、沖縄に帰ってきて、気合いを入れて立ち上がろうと歌った琉歌に感動して「ひやみかち節」を作曲したことや、捕虜収容所の悲哀を歌った「屋嘉節(ヤカブシ)」の作曲で知られる。
公演で、この2曲を歌ったのは、登川誠仁、弟子の仲宗根創、そしてひ孫の山内もりたかの3人だった。右写真が山内もりたか。左下は、仲宗根創。
屋嘉節は、「♪なちかしいや沖縄 戦場(イクサバ)になやい 世間(シキン)御万人(ウマンチュ)ぬ 流す涙」と始まる。わが懐かしい故郷、沖縄が戦場になってしまった 世の中のたくさんの人々が 悲しみ涙を流したことだ、という意味である。私の持っている工工四(クンクンシー、楽譜)では、6番まで歌詞がある。恩納山に登って戦さをしのいだこと、彼女は石川村の茅葺の長屋にいるが、我が身は屋嘉村の浜の砂地を枕に寝る日々だ、などと歌う。
登川誠仁は、味わいのある歌唱で聞かせる。とくに、最後に、私の知らなかった歌詞でしめた。「♪戦世の跡の 焼け野原見りば 又ん無ん如に お願しやびら」。戦争の跡、焼け野原となった沖縄を見れば、このような悲惨な戦争は、再び繰り返すことのないようにお願いします、という歌意である。 屋嘉節は、最後にこの歌詞があれば、歌はいっそう聞きごたえのあるものになる。これからは、この歌詞を取り入れたいと思った。
「ひやみかち節」も3人で歌った。歌った歌詞は、私が持っている工工四とは、順序がまったく異なった。次の順で1,2番と歌った。
「♪七転び転でぃ ヒヤミカチ起(ウ)きり 我(ワ)した此(ク)の沖縄 世界(シケ)に知らさ」(七転び転んで、気合いを入れて起き上がり わがこの沖縄を世界に知らせよう)
「♪我んや虎でむね 羽付(ハニチ)けてぃたぼり 波路パシフィック 渡てぃはびら」(私は虎だから 羽をつけてくれれば 波路太平洋を飛び渡っていきましょう)
1番目の歌詞は、平良新助さんが詠んだ。2番目の歌詞は、山内盛彬さんが詠んだだものだ。どちらも、戦災で打ちひしがれた沖縄県民の気持ちを奮い立たせる内容のすばらしい琉歌である。でも、私が持っている通常の工工四では、この歌詞は、5番、6番と最後に回されている。歌のはじめの方には、その後誰かが付け加えた歌詞が置かれている。付け加えられた歌詞の方は、作者には悪いが、平良、山内両氏の歌詞には遠く及ばない、通俗的な内容だ。だから、前に山内さんの歌碑が建立されたことを書いた際、わたくし的には、平良、山内両氏のこの琉歌をまず歌うべきだと記しておいた。
実際に、登川誠仁は、この両氏の歌詞をはじめに歌った。その思いは、これらが二人が詠んだもともとの歌詞であることをよく知っているからだろう。
ちなみに、「ひやみかち節」は、いまはみんなとても早いテンポで弾くが、登川誠仁はあまり早くない。早弾きの神様のような彼が、あまり急がずに弾くのをみると、もともとこういうテンポで弾くように考えられていたのだろうか、と思った。 古謝美佐子さんは、「白雲節」「ナークニー」など、とても張りのある声を響かせて、聞かせた。ハプニングが一つあった。ひやみかち節を歌っている最中に、登川誠仁は山内もりたかに向かって、なんと「もっと大きな声で歌って」と呼びかけたのだ。島唄公演では、異例のシーンだった。歌い終わったあと、「彼は私に遠慮して小さな声で歌っているから、遠慮せず大きな声で歌って、と言ったんですよ」と、聴衆に向かって説明した。「オレに遠慮せず歌えよ」と舞台で声を出して言えるのは、さすが登川誠仁である。
こういう島唄公演があったことは、山内盛彬もグソー(あの世)で喜んでいるだろう。
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