民謡には雲がよく歌われる
沖縄の空は一年の大半は入道雲がわいている。青空に白い雲がポカリポカリと浮かぶ。「世界の各地の空を見たけれど、沖縄の空の雲は一番美しい」と言ったラジオの人気DJもいる。空を見上げるとなるほどの思うことがよくある。
民謡には、この雲がよく歌われる。それは、まるで人の姿や顔に見えたり、島に見えたりする時があるからである。雲を歌った代表的な歌に「白雲節」(シラクムブシ)がある。「♪白雲ぬ如に 見ゆるあぬ島に 飛び渡てぃ見ぶさ 羽ぬ有とてぃ」
(白雲のように見えるあの島に 飛び渡って見たい羽があれば)
「♪飛び鳥ぬ如に 自由に飛ばりてれ 毎夜行ぢ行逢てぃ 語れすしが」
(飛ぶ鳥のように自由に飛べたなら 彼女のもとに毎夜通って語り合うのに)
「♪我が思る無蔵(ンゾー)や 白雲ぬ如に 見ゆるあぬ島ぬ なひんあがた」
(私が思いを寄せる彼女は 白雲のように見えるあの島のさらに向う側にいる)
「♪我がや思み尽す だきに思ゆしが 渡海(トケ)ゆ隔(ヒ)ぢゃみりば 自由ねならん」
(私が思い尽くすほど恋しい彼女だが 海を隔てて離れていれば 自由にならない)
「♪例い渡海隔ぢゃみ 別りやい居てぃん 白雲に乗してぃ 思い知らさ」
(例え海を隔てて離れ別れていても 白雲にこの思いを乗せて知らせなければ)
「♪一人淋々とぅ 眺む白雲ん 無蔵姿なとてぃ 忘りかにさ」
(一人で淋しく眺める白雲が 愛しい彼女の姿に見えて 忘れられない)
もう一つ雲の登場する民謡を紹介する。「多良間ションカネー」である。多良間島の唄だ。島に赴任してきた役人が現地妻をもらい、子どもももうけるが、任期が終わり離れなければならない。その別れの辛さを歌った名曲である。雲が登場する歌詞だけを紹介する。
「♪あがずん立つ白雲だきよマーン わあらんゆ立つ ぬり雲だきよスウーリ うぷしゃなりわらだよスウーリ 主がなすよ」
(東方に広がる白い雲のように 上方に見える大きな雲のように 出世してもう一度 島に帰ってきて下さい)
「あがずん」と書いたのは、実は違う。「ず」ではなく「す」に「。」がつくのが正しい。でもそんな字はないので出ない。宮古島の民謡ではよく使うが、発音も難しくて、説明を何回聞いてもいまだによく分からない。
この唄は、何年も家族としてともに過ごした役人が島を離れる。空に浮かぶ白い雲のように、大きな雲のように、出世をしてぜひもう一度帰ってきてほしいという、女性の願いを込めた唄である。現地妻の悲哀が表現されている。
« 小禄の具志を歩く、その3 | トップページ | 金子みすゞ「こだまでしょうか」は沖縄では »
「音楽」カテゴリの記事
- アルテで「肝がなさ節」を歌う(2014.02.10)
- アルテで「歌の道」を歌う(2014.01.13)
- アルテで「時代の流れ」を歌う(2013.12.15)
- 第30回芸能チャリティー公演で演奏(2013.11.24)
- ツレが「渚のアデリーヌ」を弾く(2013.11.18)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
沖縄は入道雲が出ている時期が長いから、謡われるんじゃないでしょうか。雲の形の変化を見て、季節の移ろいがわかりますもんね。暑くても、入道雲から鰯雲に変わってくると、季節は秋に入ってきます。でも沖縄は全国一快晴率が低いと言われますよね。夏は毎日直射日光が強く、毎日快晴って思うけど、こういう入道雲があると、気象台は「快晴」にはカウントしないんですかね。白雲も多いけど、カタブイも多いですが、それは民謡には謡われませんか。雨は民謡にはあまり出てきませんか。日本の演歌には雨が多いですけどねえ。
投稿: いくぼー | 2011年7月16日 (土) 08時48分
雲が登場する民謡は数えきれないくらいあります。沖縄は晴れていても、雲があるので快晴が少ないでしょう。でも夏は、雲があると少しは直射日光を遮ぎるのでいいですね。雨をテーマにした民謡はたしかに少ないですね。知っているのでは「愛の雨傘」があるぐらい。「愛の雨傘忘れるなよ」と謡います。
雨乞いの古謡はありますね。
投稿: レキオアキアキ | 2011年7月16日 (土) 08時58分