無料ブログはココログ

« 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その1 | トップページ | 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その3 »

2012年4月28日 (土)

沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その2

大宜味間切

国頭地方の大宜味では、村中を視察し、海浜に出ると「土人の漁業を観る、疎拙笑ふへし」とのべている。庶民の暮らしむきに目を注いだ上杉県令といえども、まだ沖縄人を「土人」呼ばわりする偏見が横行する時代だった。海辺で観た漁業の様子は「笑ふへし」と評しているのは、まだよほど漁の仕方が稚拙だったのだろうか。

032

            大宜味村喜如嘉の山々

国頭間切

国頭番所では上杉県令が質問した。「此辺海浜なり、漁業する者はなきや」。これにたいし「村々の寄留人漁業をなす、其他村々に45人つゝあり、唯釣りするのみ」と答えている。さらに「近辺の海には魚居るならん、其場所を知るや否」と質問すると「多分にあるなり」と答えた。再度「魚鰕(エビ)多しと云えは、汝等に奨励したき事あり、此辺山もあり、畠もあるけれとも、将来人口繁殖すれは、自然に田畠不足を生す、農隙(ヒマ)に漁業を教へ、村方の立安き様に、致し度と思ふが、汝等の意見は如何」と質問と意見をのべた。これに対し「現今は一般債務償却のため、精々尽力中なれは、全消却の後、網をも結ひ、舟をも作りて、人民に漁業を教ゆへし」と答えた。

海辺で魚も多いのに、漁業をする者は少ない。上杉県令は、国頭は山も田畠もあるけれど、将来、人口が増加すれば、田畠も不足することを心配して、漁業を教えることを奨励している。役人の答弁で注目されるのは、債務が多いことだ。債務を返済し終わったあとに、網や舟を造って、漁業をすることを教えたいと答えている。といっても、実際には重い債務の返済は容易ではなかっただろう。

 

安波村

安波村に行くと、川があった。「安波川は沖縄第一の川なる由、大雨等にて、洪水はなきや」「川魚生殖する様子なり、魚釣するものありや」と質問すると「川幅広きゆへ、水害なし」、「(魚は)小児遊戯に捕る位なり」と答える。
 「海に漁業するものはなきや」と聞くと、「漁夫なし」、さらに「海荒きゆへ、魚少きや」と聞けば「潮汐の時に漁することあり」と答えた。上杉県令は「漁業は大利あり、間切へも申出て、汝等周旋して、村民に漁業を教えなは、利潤あらん」と説いた。
 さらに、採薪や耕田などで暇がない、漁業をするのは非なりと思うのか質問すると「漁業を教ゆるも、利ありと思へとも、其術を知らさるを如何せん」と答える。さらに「然らは此上は、汝等周旋して、役所にも申し出て、人民に漁業を教ゆる事に尽力せよ」と強調した。
 安波村でも、漁業に従事する漁夫はいない、漁業に利があると思っても、漁業する術を知らないと答えている。ここに、食料として魚を獲ることはあっても、漁業を生業とするような、漁師もいないし、その技術もないという、この時代の現状がよく表れている。

今帰仁間切

今帰仁番所で上杉県令は、ここでも「漁業のものはなきや」と質問した。すると「磯辺に居る者、少々漁せり」と答えたので、さらに「活計に致すか、将た自用に充るのみか」と問うと「本部羽地辺に、販売するなり」と答えている。上杉県令は、ここでも「漁業は大利あり、汝等着意して、益々其利を興すへし」と説いている。

今帰仁あたりは、少しは漁をして、それも自家用の食料とするだけではなく、本部や羽地あたりにも販売に行っていたとのべている。北部の山原地方で、少しでも漁をしていた今帰仁は、例外的な存在だろう。

浜本村

ここでも「漁父(夫)はなきや」と質問すると「釣りするなり」と答え、「多く獲るや」と聞くと「能く釣り獲るときは、四五十斤を得るなり、其漁夫は糸満村の者30人位、当村の者は10人位なり」と答えた。上杉県令は「瀕海(海がせまる意味)の地なれは、漁業は村方の大利ならん、漸次漁父の増加する様、汝等尽力せよ」と説いた。

浜本村では、魚をよく獲る者はいるけれど、大半は糸満の海人(ウミンチュ、漁師)であり、地元の者は少数であることがわかる。

名護間切

名護番所で上杉県令が質問した。「此地は瀕海なり、漁業する者はなきや」「糸満辺より来り、漁りする事あり、然し当年は当地飯料不足せし故、彼等皆伊江島に移転す、当地は大漁なく、松魚(カツオ)なともとれさるなり」と答えた。さらに「村方に於て、漁父はなきや」と問うと「専業とする者なけれとも、農事の間隙に漁す」と答えた。
 これを受けて上杉県令はここでも次のように意見をのべた。「汝等の見込みは如何、意ふに当地は土地瘠せ、甘蔗(サトウキビ)を生せす、然れは後世人民の繁殖するに随ひ、貧民も加わるへし、幸に海に瀕し魚多し、因て農隙に漁業を興す見込みはなきや」。これに対し「当地は瘠土なり、培養に注意せさるへからす、故に漁業に遑(イトマ)あらす」と賛同しなかった。

上杉県令は納得せず「培養に夫れ程、日時を費耗せすとも、宜しかるへし、是迄巡回せし、瀕海の諸間切、漁業は何れも嫌へり、是は村方の大利となるへきものなるが如何」と重ねて質した。「田畑を耕作す隙に、採薪して利を得、余力あれは、草を刈りて、肥料となし、且つ藍を製して、大利を得、故に人民一般、漁業するを好ます」と漁業の振興に抵抗した。上杉県令はさらに「薪を販売する、一年の額幾何なるや」と問うと「大利とはならす、唯日用の物品を購求するのみ」と答えた。

これを受け、上杉県令は「漁業を起すは、大利ならんと思ふ、故に猶是事件は、所長に協議し、汝等も篤と勘考せよ」と説いたので「皆拝す」と記している。

名護では、漁業についての意見はそうとう執拗である。これだけ海に面し、魚も多くて絶好の条件に恵まれていながら、それまで巡回してきた間切、村々は「漁業は何れも嫌へり」とのべている。これまでの対応には、納得できないのだろう。魚を獲っても農業のひまにするぐらい。県令が漁業を起こせば大利になることを説いても、土地が瘠せているから、培養が必要で、漁業する暇がないとか、薪取り、草刈りなど忙しい、さらに「漁業を好まない」と言い逃れをする。あれこれと口実をのべて抵抗する役人に、県令が我慢ならない様子がうかがえる。

これほど、間切の役人たちが、県令が漁業は大きな収益があると奨励しても、抵抗するのはなぜだろうか。そこには、琉球王国の農業を税金の基盤とする政策があったのだろう。当時は、糸満など以外には、漁業を専業とするほどの技術もない、漁業をさせても、税収はさほど上がらない。それより農業で確実に搾り取ることを重視したのだろう。

006       海に浮かぶ古宇利(コウリ)島、屋嘉地(ヤカチ)島

恩納間切

 恩納番所で上杉県令は「此地は海に瀕す、漁業の者ありや」と質問した。「谷茶村より上は、地狭き故、漁業者多し但し獲もの多きときは、日々百斤位、少なきときは十日も獲ものなきことあり」と答えた。
 上杉県令はこれを受けて「後来人益繁殖すれは、地益狭隘(キョウアイ)とならん、況や当地は地狭く、且甘蔗なし、現今漁業者あるは、誠に幸福と云うへし、将来篤く注意して、其漁具の便否を研究し、自今益漁業者多からしめよ」と意見をのべた。

さらに「平生漁し獲る魚は、何等の魚なるや」と尋ねた。「ガツン魚、シユク魚、ヒウ魚等多し、カツヲは甚少し、又蛸もとれるなり」と答えた。

 ここでは、谷茶村には漁業する者が多いけれど、漁獲量は多い日もあれば獲れない日もあり安定していない様子が見える。沖縄民謡でも有名な「谷茶前(タンチャメー)」がある。「谷茶前の浜にスルル(キビナゴ)が寄ってきているよ、スルルじゃない、ミジュン(イワシ)だよ」と歌われる。多少の漁をしていたことが歌でもわかる。ただ、恩納は海岸線が長いのに、漁をしていたのは谷茶くらいだったのだろうか。

 上杉県令は、漁業者がいることは「幸福」だと讃えたうえで、将来は人口が増加するけれど土地はせまく甘蔗もないので、漁具もよく研究して、漁業者を増やすように進言している。

このように、上杉県令が本島各地を巡視した結果をみても、日々の食料として魚を獲る者はいても、漁業を専業とする者は、糸満以外にはきわめて少ない。漁業をするといっても、あくまで農業の暇に漁業をするところがほとんどであることがわかる。

『沖縄の歴史第二巻近代編』の「第三節水産業」でも次のように指摘している。

「上杉県令の沖縄本島各地を巡回した際に、漁業に従事するのが少ないことを知り、漁業の奨励をしようとする意向をしめします。それに対し、地方の役人は『今は、負債を償却するため、精いっぱい力を尽くしている。その負債を償却したのち、網を結んで、舟を作って、人々に漁業を教える』と答えています」。
 しかし、実際には、農民らは、「納税に追いまくられ、負債償却のために『尽力』しなければなりませんでした。そのため農民は、漁業を営む余裕などなく、すばらしい条件を生かすことはできませんでした。したがって漁業を専業とするものはほとんどいませんでした⋯⋯そうしたなかで糸満漁民だけは例外でした」。

« 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その1 | トップページ | 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その3 »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その2:

« 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その1 | トップページ | 沖縄に漁業を奨励した上杉茂憲、その3 »

最近のトラックバック

2021年11月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30