日本復帰を願うトゥバラーマを歌う
首里赤田で行われるアルテミュージックファクトリーの4月のテーマは「友」。私が選曲したのは、八重山の名曲「トゥバラーマ」である。曲名の語源は「逢いたい愛しい人」というような意味。ただ、歌詞は昔からの歌詞だけでなく、新しくたくさんの歌詞がつくられてきた。
その一つ、戦後のまだ沖縄が米軍統治の時代、1956年(昭和31)に東京に招かれた八重山芸能団の大浜津呂氏がつくった歌詞「日本復帰の悲願のトゥバラーマ」がある。これは、沖縄の苦しい現実を大和の人たちに訴えた内容だ。
その囃子で「ヤマトのウヤガナシー」と繰り返す。「大和の親たちよ」という意味だろうが、大和の人々と沖縄県民は、実際には親子という関係ではない。だから「大和の同胞たち」、つまり「大和の友人の皆さん」と訴えているのだから、「友」のテーマに合っていると選んだ。
この曲は、唄者の実力に応じてその歌の魅力が限りなく広がる。特に、高音が伸びて響かないと、歌の魅力は伝わらない。それに、囃子はより高い声が必要で、なかなか難曲だ。でも、今年、復帰40周年にあたるので、この歌詞をどうしても歌いたかった。
歌い出すと、三線はたいして技を必要としないので、そこそこできた。歌は、思うようには歌えない。ただ声を張り上げている感がある。それでも、復帰前の沖縄の人々の切々たる思いが込められた歌詞だから、その当時の人たちの感情に、少しでも近づけたら幸いだった。
囃子は、ツレがやってくれた。前に二人で練習に歌った時、宮古民謡の名手Tさんから「これだと、八重山の人が聞いたらナンダと思うから、歌う前に、『素人ですから』とことわった方がよい」とアドバイスされた。その旨、歌う前にことわった。実際に歌ってみると、なんとか囃子もこなせた。
歌い終わると、「よかったよ」と言ってくれる人もいた。曲に込められた内容が少しでも伝わればうれしい。ツレの囃子についても、友人のKさんは「トゥバラーマは100回くらい聞いているけれど、あれでいいんじゃないの」と評価してくれた。
「日本復帰の悲願のトゥバラーマ」の歌詞を紹介する。
「♪戦世どぅ 我(パナ)恨みゆる 人の親子(ウヤファー)ん散り散りなしねーぬゆ」
(戦争の世を私は恨む 沖縄の人々の親子も散り散りにしてしまった)
囃子「イーラー ンゾーシーヌ イランデドゥバナーウモリ」
「♪南ぬ風(パイヌカジマ)まぬするする吹くばしゅやー 沖縄ぬ人ぬ泣きうんで思いたぼうり」
(南からの風がするすると吹いてきたら、沖縄の人たちが泣いていると思って下さい)
囃子「イーラー ンゾーシーヌ ヤマトゥヌ ウヤガナシィ」
「♪なまぬいっとぅくぅどぅ 此ぬ(クヌ)苦しゃんしょうる やがてぃ親元ん戻らりどぅしぃー」
(今のひと時がこんなに苦しいけれど やがて親元に戻られるよ)
囃子「イーラー ンゾーシーヌ ヤマトゥヌ ウヤガナシィ」
(参考『南島歌謡大成ー八重山編』)
この歌詞を歌うたびに、日本復帰によって苦しい異民族支配から逃れ、安心して住める平和な沖縄を願った沖縄県民のこの心に、日本政府は応えてきたのか、裏切り続けたのではないか。そんな思いがいつも胸をよぎる。
今月は、少し出演者が少なかった。それぞれ皆さん、頑張っていた。
打ち上げ会では、第1部とは違ったリラックスのなかで、それぞれ自慢の演奏、歌を披露した。 私も「イラヨイ月夜浜」とリクエストがあって、もう一度「トゥバラーマ」を、今度はもともとの歌詞で歌った。なぜか、八重山づいている。
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コメント
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本土復帰を願ったトゥバラーマの歌詞、いいですねえ。「南風がするするを吹いたら 沖縄の人が泣いていると思って下さい」という表現は、なかなか大和の歌では表現できませんよ。短い歌詞に込められた、沖縄の米軍統治下での苦難と復帰への熱望の深さを感じます。
囃子で水を指すと台無しになるので、毎日キーボードで二オクターブ上のGの音階を出す練習をしました。私のキーは1オクターブ下のCから通常のAで、割としたの音しかでないので、全面的な裏声でした。
Tさんからは、「あれじゃ、喉がやられるから、きちんと根気よく囃子の練習を重ねた方がいいさ」と言われました。八重山では囃子専門の大家、比屋根さんという女性がいるそうで、トゥバラーマで民謡全国一になった宮良康正さんの囃子もしていたそうです。
友人のKさんは、「トゥバラーマを100回以上聞いてるけど、大会で優勝できるで!」と褒めてくれたんですよ。
でも専門家から見たら、まだまだでしょうね。歌は大変良かったです。練習の成果が出ましたね。
投稿: いくぼー | 2012年4月15日 (日) 19時01分
この歌詞から、当時の沖縄の人々の願いがヒシヒシ感じられます。とくに「南から風がするする吹いたら」というくだりは、歌ってもウルウルしてきました。
お囃子も大変でしたね。八重山民謡の囃子の高音が半端じゃない。でも練習の成果があって、いい感じで出来たと思います。
Tさんからアドバイスがあったから、よくなったかもしれないですね。感謝です。
宮良康正さんは前に見たライブでは、おお囃子は高知出身の女性がやってました。お弟子さんなんでしょう。トゥパラーマの囃子は、それがもう一人前の歌い手でないとできない。Kさんのことば、お世辞でしょうが、ありがたく受け止めて精進したいですね。
投稿: レキオアキアキ | 2012年4月15日 (日) 19時10分