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2012年6月26日 (火)

改作される沖縄民謡・「汗水節」

 働くことの大切さを歌った「汗水節」は、仲本稔さんが作った原歌と現在歌われている歌詞には、少しというか、でもかなり大きな改変がある。仲本さんにインタビューした宮城鷹夫さんによると、仲本さんは「いま盛んに歌われている“汗水節”は、歌詞も曲も宮良先生と私が作ったものとは違う箇所がたくさんあって困る」と語っていたという(『沖縄の風土に生きる汗水節』)。

015  その際、仲本さんが原曲でみずから三線を弾き、ガリ版刷りの楽譜も見せてくれたが、「“今様汗水節”とは違っていた」そうだ。

 例えば2番目の歌詞にある「守てそこねるな」というのは「守て損なゆみ」になったり、6番目の「百(モモ)勇みいさで」が、「百勇みいさみ」に変わっている。ひどいのは4番目の「二十歳さらみ」が「二十歳さだみ」と歌い、まったく意味まで変えている。

 私が民謡サークルでもらった工工四(楽譜)はさらに変わっている。「守て損なゆみ」は「貯めてぃ損(スン)なゆみ」とされている。原曲では「貯蓄に励み、守って損なうな」という意味だが「貯蓄に励み、貯めて損はない」という意味になる。この歌詞は、教訓歌としておかしな表現だ。原曲の歌詞がいいのは確かだ。

 「百(モモ)勇みいさで」も、私の楽譜では「肝勇みいさみ」となっている。これは意味あいはあまり変わらないだろう。「二十歳さらみ」とは「二十歳定め」の意味なので、分かりやすくしたということだろう。

 Photo

    この五線譜は「保存されている楽譜」とのこと。宮良長包さんが作曲した原曲だろう(『沖縄の風土に生きる汗水節』から) 

 曲(旋律)では、ある音から別の音に移るのに滑らかに音程を変える技法の「ボルタメンドを加えたところが多く、間奏のところに『スラハタラカナ』(そら働こう)」を勝手につけたのさえ出ている」と指摘している。

 いま歌われる「汗水節」はほとんど「シュラヨー シュラ働かな」と囃子をつけている。人によっては「シュラヨー シュラヨー」と繰り返す人もいる。沖縄民謡には、囃子は欠かせないので、自然にこの囃子がつくようになったのではないだろうか。

 仲本さんは、原歌が変えられることに、我慢ならなかったという。
「民謡歌手の中には、この曲に妙な抑揚をつけて歌い、ひどいのは歌詞まで勝手に変えた人がいるのです。それを聞かされると、まったく悪趣味としか言いようがありません」「宮良先生もきっと、草葉のかげで嘆いておられますよ」(同書)。

013

 原歌、原曲は大切にしてこそ、歌に込めた本来の思いを知ることができる。
 ただし、民謡の場合は、昔から庶民に受け入れられ、広がり、歌い継がれるうちに、庶民の気分、感情に合うように、歌詞に手が入れられたり、歌詞が追加されたり、ときには替え歌がつくられて歌われることが当たり前になっている。
 八重山古謡なんか、同じ曲でありながら、シマ(集落)ごと、離島ごとに、旋律も歌詞も少しずつ異なるのが普通である。ひどい場合は、歌詞の意味が真逆に変わる場合さえある。

 これは沖縄だけでなく、日本の民謡についても同じことだという。
だから、民謡は、創作したのは個人であるけれど、民衆のなかで普及するうちに、いつの間にか原歌は変容をとげながら歌い継がれる。一個人の作品から、民衆が育て歌われる作品となっていく。それが、民謡の宿命のようになっていることもまた現実ではないだろうか。

 

 

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コメント

結局のところ、「汗水節」が原歌から変えられたことは、悪いことなんですか、民謡の宿命だから仕方ないことなんですか?

 民謡の場合、曲が広く歌われ、受け継がれていくと、もはや作詞、作曲した人の手を離れてしまいます。
「西武門節」なんかも、囃子の「ガンチョ(眼鏡) フルガンチョ チャンナギレー」というのは、もともとなかったのが、いつの間にか勝手に加わったそうです。
 原歌に手が入れられて、さらにそれがレコード、CD化され、楽譜化されて残されると、もはやもとにはなかなか戻れないですね。だから、原歌を大事にする人たちが、歌い継いでいくしかないかもしれない。
 

作った方の手から離れ
その歌に関する解釈も時代により変わり
歌い方、演奏の仕方も変わる
ただ変わりながらもその時代を生きる人々に愛され歌い継がれていく
それこそが「民謡」ではないでしょうか

一素人の意見ですさん。コメントありがとうございました。
おっしゃる通りですね。いま歌われている民謡は、ほとんどそのように、さまざまな時代に、さまざまな人々によって、手が加えられ、歌い方も変わってきて、それによってまた愛され、歌い継がれてきているのでしょう。
 沖縄の場合、とくに沖縄芝居に使われる際に手が加えられ、それが広がった背景もあるようですけれど。
 日本民謡の有名な「五木の子守唄」「竹田の子守唄」なども、いま広く歌われているものは、元歌からはかなれ違っているそうです。
 民謡は、文字通り、民が作り上げる歌ですからね。

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