アルテで「別れの煙」を歌う
11月のアルテ・ミュージック・ファクトリーのテーマは「喜」。さて、どの曲にしようかと迷ったが、知名定繁さんの名曲「別れの煙」とした。定繁さんは、唄者の知名定男さんのお父さんである。
かつて、子どもが就職や進学で本土に旅船で立っていく時、北部の親たちは、名護市の名護城に登って、木の枝葉を燃やして白い煙を上げて見送った。船で名護の沖を通る船からは黒い煙を上げて、子どもたちは、山に向かって親に別れを告げたという。そんな情景を歌った曲だ。 本土に行く船は、伊江島付近を通って行った
別れの曲であるが、親にとって子どもの旅立ち、めでたい嬉しいこと、喜びである。同時に親元を離れる別れの寂しさがある。「喜」のテーマになんとか半分は合っていると思って選曲した。
今回から、会場がアルテ崎山ウォーバーAホールとなった。舞台と客席が近く、一体感がある。なんか、緊張感がこれまでより少なく、三線のミスも少なかったのはラッキーだ。
歌い終わると「これはいい曲だね」「よかったですよ」「曲の説明の時から、もうなんかウルウルしてましたよ」など感想が寄せられた。歌の心が少しは伝わったみたいだ。
歌詞を紹介する。和訳は自己流である。
♪別てぃ旅行かば 嬉さ淋しさん 思出(うびぢゃ)しよ産子(ナシグヮー) 島の事ん
ちゃー忘しんなよ
(別れて旅に行けば 嬉しいけれど淋しい 思い出せよわが子よ 島のことを
絶対に忘れるなよ)
♪山の端(ファ)に立ちゅる 照らし火ぬ煙(チムリ) かりゆしの船に 産子目当てぃ
ちゃー かりゆしどぅ
(山の端に立つ 照らし火の煙 旅立つめでたい船に わが子見つめる
めでたいことだよ)
♪糸ぬ上ゆ走(ハ)ゆる 船に立つ煙 山ぬ端に向かてぃ 我親目当てぃ
ちゃーかりゆしど
(水平線の上を走る 船から上がる黒い煙 子どもは船の上から山の端に向かって
わが親を見つめる めでたいことだよ)
♪別り路ぬ手巾(ティサージ) 胸内(ンニウチ)に招ち 互に思(ウ)みちらさ
見ゆる間(イェダ)や ちゃー名残りさよ
(別れの時に贈られた手拭い 胸の内にしまい お互いに名残りを惜しい思いがつのる
見える間は 名残り惜しいよ)
♪親子振別(イヤクフヤカ)りぬ 照らし火ぬ名残り 面影(ウムカジ)どぅ増しゅる
名護ぬ城(グシク) ちゃー名残りさよ
(親子の別れに際して 燃やした照らし火の名残り 子どもの面影が増すことよ
名護の城跡だ 名残り惜しさよ)
名護城跡には、「白い煙黒い煙」という石碑が建っている。写真では見たが、実物はまだ見ていない。戦前、大和に紡績女工としてたくさん出かけた。私の通っている民謡三線サークルのМおばあは、90歳になるが、女工として愛媛県に行っていた。この曲をみんなでサークルで演奏すると「いい曲だねー」と言う。実感がこもっている。
仲良しのHおじいは、逆に「この曲は苦手だよ」と言う。軽快な曲が好きだからだろうか。
ファクトリーでは、歌三線では、八重山民謡の唄者sonoさんが「揚古見ぬ浦」(アギクンヌウラ)など2曲を披露した。教師試験を受けるリハーサルを兼ね、舞台に正座して、演奏した。難しい曲だが、美しい歌声だった。
宮古民謡の名手、Hさんは「とうがにアヤグ」を演奏した。いつ聴いても、味わいのある見事な歌だった。
ツレは、18日のピアノ発表会で演奏するジブリアニメから「さよならの夏~コクリコ坂から」をアルテでも演奏した。ピアノの鍵盤、ペタルの具合が悪く、苦労しながらも、ピアノを初めて7カ月とは思えない、美しい演奏だった。
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コメント
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「別れの煙」は親子の情愛が込められた、とてもいい唱ですね。子どもの巣立ちは嬉しいことでもあり、淋しいことでもありますよね。でも内地に働きに行った子供が苦労し故郷沖縄に帰りたいという気持ちを唄った「女工節」など、内地で働くつらさを唄う唄もあります。
ファクトリーは最近、sonoさんが必ず出てくれるようになって、三線披露が複数になったのでよかったです。
宮古民謡の名手Tさんは、めったなことではその喉を披露しないので、今回はラッキーでした。ますます宮古島に行きたくなりましたよ!
アキアキさんもこれからも三線、頑張ってください!
わたしのピアノは18日のコンサートのできが心配です。リハでとんでもないミスしましたからね。
投稿: いくぼー | 2012年11月15日 (木) 08時11分
そうですね。こういう親子の別れは、とても多かったでしょう。いまは形は変わりますが、心情的には変わらないものがあるでしょう。歌って、その気持ちが伝わることが一番大事なので、歌ってみてよかったです。「女工節」も歌いたいけれど、やはりあれは女唄でしょうね。
SONOさん、平良さんともさすがです。毎回出てくれると、勉強にもなります。
投稿: レキオアキアキ | 2012年11月15日 (木) 08時21分
アキアキさん、平敷屋朝敏の墓を探していたら、ここに来ました。
こんなに沖縄の歴史を素直に表現した素晴らしいブログに出会えたことを嬉しく思います。
すぐにコメントすることを忘れて、このブログにのめり込みました。
ここで勉強していなかったら、きっと平敷屋のタキノーに行っていたと思います。
ほかにも、興味あるものばかりで毎日勉強させて頂いております。
「 白い煙 黒い煙 」 では、名護グシクを思い浮かべました。
合図の煙り ー 親子の別れ
乙女は汽船のデッキからふるさとの山を慕い
父母を恋いて 白い煙を見つめる
春の日は静かに夕もやの中にうすれていく
やがて汽船は本部半島にその影を隠した
つきせぬ名残りを一抹の黒い煙にとどめて
「 なりやまあやぐ 」ではあのメロディーが頭をよぎりました。
サーなりやまや
なりてぃぬ なりやま
すみやまや
すみてぃぬ すみやま
イラユマーン サーヨーヌ
すみてぃぬ すみやま
1月に行く予定の無かった多良間島へ朝敏の墓参りと、
未だ探訪が出来ていなかった宮古のグスクを巡ります。
もちろん沖縄本島へも探訪に行きます。
投稿: ピースオレンジ | 2012年11月16日 (金) 21時09分
ピースオレンジさん。コメントとブログに評価までいただき、ありがとうございます。
随分よく沖縄も回られていますね。多良間島まで行かれるとは、いいですね。私も民謡の「多良間ションカネー」が好きでよく歌うけれど、まだ行ったことがありません。
宮古島も、今月末に初めて行く予定です。
宮古は、古い史跡もあれば、人頭税廃止運動のゆかりの史跡もあり、民謡もよい曲がたくさんあり、2日ではとても見れないけれど、楽しんできたいと思ってます。
これからもよろしくお願いします。
投稿: レキオアキアキ | 2012年11月17日 (土) 09時30分