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2013年6月12日 (水)

「多良間ションカネー」の謎、その2

「多良間ションカネー」の歌詞の謎を探るため宮古民謡の工工四を見てきた。だが、この曲がもともと生まれた現地は多良間島である。宮古民謡の名曲として、宮古島で歌われているのは、宮古流に手が加えられているかもしれない。だから、地元の多良間島でどうのように歌われているのかを見なくてはいけない。それで、多良間島関係の資料を見ていると、『村誌たらま島』に、多良間島で歌われている原曲の歌詞が掲載されていた。西平カマさんから採録した歌詞だという。

この歌詞を読むと、これまでのあれこれと考えていた疑問はすべて氷解した。結局のところ、これまで見てきた宮古民謡工工四は、いずれも原曲とは、歌詞の内容や構成そのものから大きく変わっている。そのため本来の歌の意味が分かりにくくなっている。それに、大事な歌詞がいまは省略して歌われていることが分かった。

Img_0777
      写真のTさんの「多良間ションカネー」は絶品。いま病気だと聞く。はやく健康を回復してまた聴かせてほしい。

多良間島で歌われてきた歌詞は、次の通りである。

   歌詞                       

1、前泊道がま からよ             

  又、下りゅ坂 かましゅうゆず からよ     

 主が船 うしゃぎがよ すが、下りよ     

2、片帆持つば 片目ぬ涙うとし         

  諸帆持つば 諸目ぬ涙うとし 

  主が船 うしゃぎてよ かなしゃよ

戻る道中んなよ 又、降らん 雨ぐりや

  わーら上ど 立つ 雨ぐりやあらん

  うえんまぬ 目の涙どー

3、東に立つ 白雲だきよ 又、わーらん立つ ぬり雲だきよ

  うぷしゃなりよ ぱーりー わーらんだ

4、片手ゅしや ぼうずがま しょうき 
 
又、かた手ゅしや びんぬ酒 持つよ

  主が船 迎いがよう すが下りよ

 次に意訳を紹介する。

1、前泊の小さな道から

のぼったり下りたりの坂道を通って

主の船を見送りに浜に行こう

2、片帆をあげると片目から涙が出た

諸帆をあげるといよいよ悲しみも深まり 
 
こうして泣きながら見送り

帰る途中空を見ると真黒な雨雲が

空一面にひろがってにわか雨が降り出した
 
 しかし、この雨は
 
 悲しみのさめやらぬウエンマの涙だ

3、東の空に沸き立つ白雲のように

次第に大きくなる空の雲のように

大きく出世して早くお帰りなさい

私の愛しい主よ

4、そのときはかた手で坊やの手をとり

かた手では祝いの酒びんを持って

主の船を迎えに 

又、浜に行きます

 

 多良間島で歌われている歌詞を見ると、意訳を見れば、ウエンマ(現地妻)の悲哀がとてもよく表現されている。

 歌はやはり、見送りに浜に出る場面から始まる。お別れになると、船が片帆を上げれば片目から涙がこぼれ、諸帆を上げれば両目から涙がこぼれる。
 この歌詞は、「与那国ションカネー」とまったく同じだ。どちらが先に作られたのかは、よくわからない。

 大事なのは次の見送って帰る途中の情景である。真っ黒な雲が空一面に広がり、にわか雨が降り出した。「悲しみのさめやらぬウエンマの涙だ」。ウエンマの深い悲しみが、見事に表現されている。ところが、どうしたことか、この2番の歌詞は、省略して歌われるという。長いからだろうか。147
                     写真は宮古島来間島



          

 ウエンマの悲哀が歌われた後に、島を出た役人が立派に出世してまた島に帰ってきて下さい、その時は、子どもの手を引き、祝いの酒びんを持ってお迎えに来ますとなる。これは、夫婦、家族同然に暮らした役人とこれで生涯会えないのでは余りにも辛すぎる。どうか、もう一度島に帰ってきて下さいという、祈りにも似た強い願望が込められている。深い悲しみがあるからこそ、最後のまた帰ってきてほしいという願望が生きてくる。それは、あくまで願望であって、実際にはほとんどあり得ないことだ。生き別れになることが分かっていながら、帰ってきてほしいと願わずにはいられないウエンマの辛さが、いっそう心に深く刻まれるのだ。
 
 「多良間ションカネー」は名曲であるが、原曲の歌詞で歌うと相当長いので、省略して歌わざるを得ないだろう。でも、あくまでもこのような、多良間島で歌われている歌詞の内容と流れをよく知れば、歌う場合も、歌に込める思い、気持ちの入れようも異なってくるだろう。そのことを強く感じたのである。

 

 

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