「あやぐ節」に歌われた落平
「あやぐ節」に歌われた落平(ウティンダ)
沖縄民謡の「あやぐ節」は、宮古島から沖縄本島に来る様子など歌った民謡である。宮古民謡ではなく、本島で歌われる曲だと聞く。宮古民謡の「とうがにあやぐ」が元になっているともいわれるが、私は、あまり似ていないように思う。
歌詞の中に「落平の水に浴びすな」という文言が出てくる。この「落平(ウティンダ)」がよく分からなかった。 現在の落平の様子
那覇市のモノレール壺川駅前に史跡案内板があり、そこでこの附近の史跡が紹介されているなかに、落平の紹介がある。
現在、沖縄セルラースタジアム(野球場)の南側の道路端に落平樋川(ウティンダヒージャー)がある。この湧水が歌に登場する落平だった。
野球場のある奥武山(オウノヤマ)公園のあたりは、昔は海で、奥武山は島だった。埋め立てられた土地だ。
落平の湧水は、この付近を走るたびに、なにか拝所のような場所なので、「何を祀っているのかな」と前に見に行ったことがある。そこは、湧水であり、そこが拝所ともなっていた。その時は、水量はチョロチョロ出るくらいで多くなかった。まさか、この湧水が「あやぐ節」でうたわれる落平とは思いもしなかった。
昔の那覇は、井戸は塩辛水で飲料水には使えなかった。そこで、対岸の落平から湧き出る水を水桶に積んだ伝馬船で那覇に運んだ。その水を飲み水として売り歩く「水売り」が見られたという。
落平に殺到し、順番待ちをする伝馬船
史跡案内板にある昔の写真を見ると、水桶を積んだ伝馬船が水汲みのために並んでいる。当時の雰囲気がよくわかる。
話は「あやぐ節」の歌詞に戻る。落平は次のように歌われる。
「♪沖縄いもらば 沖縄の主 落平ぬ水に 浴みさますなよ 吾(バ)んたが香(カ)じゃぬ 美童(ミヤラビ)匂いぬ 落てぃがすゆら」
(沖縄本島に行けば 沖縄の旦那様 落平の水で水浴びしないように 私の匂い 若い女性の匂いも 落ちてしまうのではないかしら)
琉歌の字面だけの和訳では、意味がよく分からない。島袋盛敏、翁長俊郎著『標音評釈琉歌全集』では、「あやぐ」ではなく「とうがに節」という題名で、「あやぐ節」と同じ歌詞(琉歌)が収録されている。この『琉歌全集』は、次のように評釈をしている。
落平の水を水桶に受ける伝馬船
「落平の水に浴みないようにして下さい。そして私の匂、いとしい匂をいつまでも持っていて、他の人に移さないようにして下さい。お前の匂を他人に移してなるものか、いつまでも私が強く抱きしめて放さないから安心しておいで」
夫が宮古島から本島に旅していけば、浮気をしないか心配だったのだろう。「落平の水」にかけて、「私の匂いを落とさないで、浮気しないで」と諭したのではないだろうか。
追記
仲宗根幸市編著『琉球列島島うた紀行、第三集沖縄本島周辺離島那覇・南部』によると、この歌詞は、夫と宮古の妻との関係ではなく、「宮古から那覇へ旅してきた船乗りと遊女の問答歌」だという。となれば、「落平の水で浴びてはいけない」と言っているのは、遊女となる。
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