沖縄民謡に歌われた民具、ニクブク
ニクブク
「これって何?」。最初聞いたときに想像できなかったのが「ニクブク」。藁筵(ワラムシロ)のことだ。
沖縄では、昔は、家の座敷の下敷きにし、その上に茣蓙(ゴザ)を敷いた。庭に物干し用として敷いたり、何かの祝い事がある時は、庭に敷いた。冬の寒い夜、貧しい家庭では、これを寝具に使う場合もあった。ニクブクは、自作する家が多かったが、自作できない家では、他所からツクヤー(藁筵作り)を頼み入れ、寝泊まりさせて作らせる場合もあった。
ムシロは、藁やイ草で編んだ敷物である。菰(コモ)ともいった。ネット「ウィキペディア」によると、ゴザはその代表的なものだという。
私の育った高知では、ムシロとゴザはまったく異なる。ムシロは藁で編んだ厚くて粗い敷物のこと。ゴザはイ草で編んだ薄い敷物のことをいう。畳表に使われるのと同じ物。巻いて持ち運びもできる。たとえば運動会など野外行事の時、ゴザを敷いた。いまはブルーシートにすべて取って代わられた。
「スウキカンナ」節では、「寝座敷用のムシロを買いませんか。あなたのムシロは縁の織り方がよくない。私のニクブクを買ってください」という。
ニクブクが藁ムシロだとすれば、寝座敷ムシロとはどう違うのだろうか。アルテ三線仲間の玉那霸さんによると、「寝座敷ムシロとはゴザのことですよ」という。ニクブクは粗いムシロのことである。
玉那霸さんが興味ある話をしてくれた。それは、首里崎山町あたりは、泡盛の酒造所がいくつもあった。そこでは、麹を干すのにニクブクを使っていた。使ったニクブクをたくさん塀に掛けて干す光景をよく見かけたそうだ。
ニクブクを干すため、塀の先端が四角だと、雨が降って来た時、ニクブクを仕舞うのに塀に引っかかって手間取る。だから、塀の先端は三角にしてあり、素早く仕舞うことができたという。なるほど。沖縄は雨が降る時は、一秒を争って仕舞わないとずぶ濡れになるからだ。
崎山の酒造りは「三村踊り節」に歌われている。沖縄各地の物産などで共通する三つの村を歌った面白い曲である。5番の歌詞に酒造りが登場する。
「赤田、鳥堀、崎山と三村 三村ぬ二才達(ニセタ)が 揃とうて 酒たち話
麹出来らしょ 元ぬかんじゅんど」
この三村は、首里城の周辺にあり、昔から泡盛造りが盛んだった。次のような意味になる。
「赤田、鳥堀、崎山の三つの村の青年たちが揃って酒造りの話をしている
麹をうまくつくれよ うまくやらないともとがとれず損するぞ」
先日、糸満市西崎にある比嘉酒造を見学する機会があった。泡盛資料館に、ニクブクの上に黒麹を広げて干している様子が再現されていた。「このようにしてニクブクが使われたのか」とよく理解できた(上写真)。
それにしても、ニクブクという名称はあまりにムシロとはかけ離れていて、まだなじめない。「一説には『猫ぶく』、すなわち作り方が猫の爪を立てるしぐさにちなんだ名称だという」(上江洲均著『沖縄の民具と生活』)。
以上は、上江洲氏の著書を参考にさせていただき、私見をまじえながら紹介したものである。
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